セラピストにむけた情報発信



脳卒中患者における障害物回避動作:デュアル・タスク能力の観点から.
Smulders et al. 2012




2013年1月28日

本日ご紹介する論文は,脳卒中患者における障害物回避動作の問題を,デュアルタスク能力の観点から記述した報告です.オランダのVivian Weerdesteyn氏のグループによる研究です.

Smulders K, et al.: Community-dwelling people with chronic stroke need disproportionate attention while walking and negotiating obstacles. Gait Posture. 36: 127-32, 2012


実験対象者は回復度が高く十分に自立可能な患者8名でした.

実験では,トレッドミル上の歩行課題 において不意に出てくる障害物を回避させるという実験装置を利用しました.障害物回避課題を行うと同時に呈示される音のピッチの高低を判断するというデュアル・タスク課題を行い,同年齢の健常高齢者グループの成績と比較しました.

実験の結果,まず障害物回避の精度については,2つのグループ間で有意な差がありませんでした.次に,音のピッチの高低判断の成績については,音が障害物を回避している最中に呈示された場合にのみ,脳卒中患者の判断が高齢者に比べて遅れることがわかりました.それ以外のタイミングで音が呈示された場合には,2つのグループ間で有意な差がありませんでした.

以上の結果から,十分に自立可能なレベルにまで回復した脳卒中患者の場合,歩くことそのものに対する注意配分は,同年齢の健常者と同程度でよいといえます.ただし障害物をまたぐために足上げの高さを調節する行為については,より多くの注意配分が必要であると考えられます.

かつて脳卒中片麻痺患者における歩行中の視線位置について検討した印象では,ある程度自立歩行が可能な脳卒中患者であっても,その歩行には多くの注意の配分が必要な場合があると感じました.もし我々のこうした観察が妥当と考えれば,今回報告された結果は,自立度・回復度がかなり高い場合にのみ当てはまる結果と考るべきかなと感じました.


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